【書評企画】社会的投資を知るための1冊【第5回】

UNRISD

 

ARUNパートナー 日下部京子
(アジア工科大学院 Asian Institute of Technology)

利益追求のみではなく、社会的意義を追求し、社会的課題を解決することを目的としている社会的企業に投資する ARUNに関わる人々は、基本的なところで、今の経済のあり方に疑問をもっているといっていいと思う。
そのように、今の新自由主義経済に疑問を呈している人達が注目しているのが社会・連帯する経済(social and solidarity economy – 以下SSE)。

今年、国連社会開発研究所(United Nations Research Institute for Social Development – UNRISD)が、SSEについての会議を開催し、そこで一連の論文が発表された。今回ご紹介するのは、そのうちの2本だ。

Dash, Anup (2014) “Towards an epistemological foundation for social and solidarity economy”, Occasional Paper 3: Potential and limits of social and solidarity economy, United Nations Research Institute for Social Development. (「社会的・連帯する経済の認識論的基礎」)

Marques, Joana S. (2014) “Social and solidarity economy: Between emancipation and reproduction”, Occasional Paper 2: Potential and limits of social and solidarity economy, United Nations Research Institute for Social Development (「社会的・連帯する経済:解放と再生産」)

両者ともに言っているのは、SSEについては確立した定義がない、ということ。
社会的経済は19世紀初頭から、連帯する経済は20世紀後半から議論されているにもかかわらず、SSEについては定義がない。そこにSSEの混乱と可能性がある。

一応「協同と協力をベースとした経済活動」「それを支える自立心と民主的な意思決定、」「経済的利益よりも共通の社会的意義の充足を指向」などが基本姿勢だが、問題はこれがどのような形態をとればSSEとなるのか? ということだ。

MarquesはSSEの形態と発展の可能性について、ブラジルとポルトガルを例にあげながら論じている。
ここで Marquesが警鐘を鳴らしているのは、SSEといいながら、安い賃金で人を働かせ、社会的意義の名目のもとに労働搾取が起こる可能性がある点だ。半分ボランティアのような立場になることで、SSEで働く人達自身が労働者としての権利を主張できなくなってしまうという皮肉な状況。または、本来は国が提供するべき社会的サービスをSSEが提供することで、国に安く使われるだけの機関となり、本来疑問を呈していた新自由主義的な体制をそのまま温存する役目を(これまた皮肉にも)負わされてしまっている場合が、多々ある。

Marquesは、さらにエスピン・アンデルセンの福祉国家三類型を使って、SSEの形態や重要性が変わることを示している。
スカンジナビア諸国のような社会民主主義型は、国が国民の福祉をカバーしているのでSSEの役割は小さい。
北アメリカのような自由主義型では福祉は市場ベースなのでSSEも市場ベースになる傾向がある。
大陸ヨーロッパや日本のような保守主義型では福祉における家族の役割が大きいので、SSEは国家と並び富の再分配の役割を担う-そう、言っている。
家族が福祉を全面的に担っているカンボジアでもSSEの役割は極めて重要であるが、それが富の再分配につながってこそ役割を果たすと言えるかもしれない。

また、Marquesは、SSEの発展形として、市場型ではなく、閉じられた相互扶助的なもの(メンバー間のみの助け合い)でもない、新自由主義経済に対抗し、それに替わる生産と社会関係を目指した「社会変革(social transformation) 」としてのSSEの可能性について触れて いる。
現在ではまだ概念的なものにとどまっているが、例えば自主管理/自立/共同所有などを目指した組合の運動などにその萌芽が見られると言っている。ただこれはまだまだ未熟な段階で、ちょっとした外部の刺激で市場型/労働搾取型/閉じたグループ型になってしまう。そして、今はまだ生産関係でしかSSEを実現できていないので、これを社会的関係にまでひろげることができてこそ、SSEがその目的に忠実な形で実現できる、と言っている。

また、Dashの論文はSSEの考え方の歴史的発展と経済の非主流的アプローチとの関係性を説明していて、SSEが盛り上がってきた過程がよくわかるので、一緒に読むことがお薦め。

社会的企業の「社会的」って何だろうとかなかなか整理ができていなかったが、これを読んで、皆まだ混沌としているのだな、と再確認ができた。その意味でほっとする……というか、ARUNは最先端なんだ! とあらためて思った次第。

captured image from http://www.unrisd.org/

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