ARUNパートナー 小笹俊一
「人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する!」
ダニエル・ピンク著
邦題のタイトルがあまりにもよくなくて「To sell is human」というオリジナルのタイトルのほうがすっきりする。
未来を予言してきたと人気の高い、ダニエル・ピンクさんの去年夏に翻訳版が出版された最新作をご紹介する。
私は去年の2月に希望が通りセールスマンになったわけだが、セールスは今までの様々な仕事、アメフトのコーチをしたりキブツで玉子を拾ったりパリでウェイターをしたりアナウンサーをしたり記者をしたりの総決算だなあと思うことが頻繁にある。
「あ、この人と話すときはこの話題が合いそうだ」
「こっちは、あの時のあの体験を使おう」
などなど、様々なケースに出くわすたびに脳からひきだされる判例はこれまでの蓄積からの教訓であり、45歳までセールスマンをしたことがなかったというハンディはあまりないと思えるようになった。それはこの本のおかげである。
この本で、ピンクはセールスという概念を単にモノやサービスを売り買いするということにとどめることなく、幅広く「コミュニケーションすることによって相手を動かす」という概念にまで広めることで、「セールス」に携わる人口の数は増加しているだけでなく今や誰もが1日のうちのある一定時間を「セールス」に携わるようになったと説く。ARUNの月例会に参加を呼びかける、これも「セールス」だというのだ。
こうなってしまった要因としてピンクは、かつては売り手上位だったセールスの世界がネット社会によって、情報の非対称性がなくなり、なかなか隠せない世の中になったことをあげる。事態はさらに進行しているとピンクは説き、むしろ今は、買い手のほうが情報の非対称性では優位で、売り手が気を付けなければならないという。
こんな世の中への変化が進行中だという前提のもとに、「相手の体を触る方が成約率を増やせる」や、「キャッチコピーで、大きく売上が変わった」など、いろんな事例が紹介される。これは翻訳の神田昌典さんが感情マーケティングと呼ぶもので、単なるテクニックとしても使えるものだが、それをテクニックとして使ってしまうと、本性がばれたとき、とりかえしのつかない時代になったという。
いろんな産業がクロスオーバーし上場企業も単に株主価値の最大化を求めるだけでなくなっているリーマンショック後の世界で、改めて自らの鍛錬の重要性を再認識するとともに、セールスこそはまさにヒューマンで、これからいかにIT化が進んだり、フラット化が進んだりしてもなくなることはない最後の職業なのだろう。そんな思いを新たにさせてくれる好著だ。
こういうことを考える人は最近、増えているようで、去年は「なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?」という著作も出版された。こちらではARUNパートナーの岩瀬さん(著者ブロートンさんの友人なんだそうだ)が後書きを記している。
あわせてご一読を。
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