【連載第2回】世界にはどのような社会性評価手法があるのか

sympo

第1回はこちらから

社会的投資[1]への関心や需要の高まりやプレイヤーの多様化と平行して、事業の社会性モニタリングおよび評価手法の必要性も高まっている。連載第2回目の今回は、世界にはどのような社会性評価手法があるのかについて紹介していこうと思う。

まず、そもそもであるが、なぜ、私達は評価手法を必要とするのか、という問いに立ち返ってみたい。そのために、「社会的投資とは何か」について今一度考えてみたい。

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社会的投資とは、

・経済的リターンのみならず、社会的リターンも追求する投資のことである。あるいは、社会的リターン達成のために、幾分かの経済的な利潤を喜んであきらめる意思を含む場合もある。

・短期的に莫大な利益を生み出す投資のあり方に疑問を呈する形で生まれ、社会的価値を生み出す事業こそ持続的・長期的に経済的利益を上げることにつながるという考え方に基づいている。

・具体的には、貧困、環境、福祉など社会的課題の解決に寄与する目的で事業を営む企業に対する投資を指す。

・特徴としては、
1)投資に伴う経営支援等の技術協力(Technical Assistance)を重視する、
2)企業の経済的な活動だけでなく、関係者に生じた社会的な影響も積極的に評価する、
3)通常の投資と比較すると、短期的リターンよりも長期的リターンを重視する、
等がある。

投資活動を行う機関には、必ず投資原則もしくは投資方針があり、例えば「社会的投資を行います」と宣言する機関には(ARUNも含め)、上記のような意思を反映させた投資の判断基準や投資判断を行う際の指針が存在する。皆さんも、よく耳にされる表現かもしれないが、社会的投資やインパクトインベストメントの文脈においては、「(social) impact-first or finance-first」という表現が聞かれる。投資主体者が社会的リターンと経済的リターンのどちらにどの程度比重を置くか決定しているわけだが、実際には、社会性と経済性は両極にあるのではなく、impact-first〜mostly impact〜blend(value)〜mostly finance〜finance-firstとミッションや投資方針によって異なっている。いずれにせよ、「社会的投資」と言っても、その理念や投資方針は多様であるということである。

そして、こうして掲げた理念(投資にかかる原則、方針、指針)が実際の投資事業や経営支援等の実務の中に浸透しているわけだが、社会的投資にとって重要な課題は、投資によってどの程度の社会的インパクトを生み出すことができているのか、という点である。そのためには、投資効果が客観的・定量的に測定・評価されなければならない。

そこで、「投資(インプット)に対する社会的インパクトとは?」という疑問に答えるべく、社会的投資を行う機関の多くは、適切な評価手法を開発・導入し、モニタリングや評価を行っている。また、定期的にレポートを発行し、積極的に情報開示を行っている。これは、出資者や運用者の主観的な自己満足に終始しないためにも重要なことである。また、投資による社会的効果を客観的・定量的に測定・評価することで、投資スキームに対する信頼性も向上し、投資の拡大・発展にも寄与するものと考えられる。

下記に、現在社会的投資やインパクト投資において使用されている社会性および開発効果評価の枠組みや指標群のうち、特にビジネスを対象とした手法に関して世界で主に使用されているものをいくつか選択して紹介する。

開発者

評価枠組み・指標名

内容

1. Global Reporting Initiative(GRI):

Global Reporting Initiative Guideline

・企業がサステナビリティ・レポート(CSR報告書等)を作成する際に参照可能なガイドライン。2013年に第4版発行。
・Triple Bottom Line(経済・社会・環境)を中心とした指標。
・”Reporting Principles and Standard Disclosures”と”Implementation Manual”の2部構成。

2. Global Impact Investing Network (GIIN):

Impact Reporting and Investment Standards (IRIS)

・インパクト・インベストメント(社会貢献につながる投資)を促すために、企業や投資家が参照しやすい標準的な指標を開発。
・アクティビティ・アウトプットに焦点をおき、400以上の項目から使用者が目的と用途にあわせて必要な項目を取捨選択することが可能。
・組織、財務、企業活動の社会・環境・労働面のインパクト、製品・サービスのインパクト等を指標化。
・様々な手法や枠組みを対象としつつ、一貫性やデータ比較のニーズに合うよう設計されている。実際の使用例等もウェブ上で共有。
・2014年に改訂予定(version 3.0)

3. Global Impact Investing Rating System (GIIRS)

・投資先の社会性を評価するレーティング組織として、ADBやIDB、ロックフェラー財団など20の財団や投資銀行、43ファンドにより支援を受けている。
・2012年までに企業416社、ファンド60本が評価を受け、報告書が作成されている。

4. Business Call to Action (BCtA):

Measuring Value of BCtA Initiative: A Result Reporting Framework

・BCtAに参加する企業がインクルーシブ・ビジネスの開発効果を把握する枠組を提供。投資、雇用創出、人材開発、企業開発、所得向上、財・サービスへのアクセス、インフラと持続可能性を中心とした指標。
・企業は応募フォームに事業開始前に期待される開発効果を記載。その後、毎年、Results Formに実際の成果を自己申告。

5. International Financial Corporation (IFC):

Development Outcome Tracking System (DOTS)

・IFCが支援する全事業において、財務、経済、環境・社会、民間セクター開発の成果を測定する枠組み。
・プロジェクトや企業を横断的に比較することを可能とする手法で、標準的指標と業種別指標がある。
・企業が提出する報告をもとに、IFCが事業評価を行う。
・開発効果の評価を行うだけではなく、開発効果を向上させることを目的に開発されており、意思決定や戦略評価などにも活用される。

6. World Business Council on Sustainable Development (WBCSD):

Measuring Impact Framework

・ビジネスの開発インパクトを評価する枠組。
・企業のインターナルモチベーションに対応するため、事業リスクや機会を把握することを目的に開発され、リザルトチェーン及び指標の選定に重きを置いている。
・企業自身が評価する範囲を決め、直接・間接的インパクト、及び開発効果を分析し、その結果を経営判断に活かしていくことが期待されている。
・プロセス重視で、特定の指標を設けていないが、主に企業経営・環境マネジメント、インフラ・財・サービスの提供、雇用・技術開発、現地調達・納税の観点から評価。

7. Oxfam:

Poverty Footprint Framework

・ビジネスの開発インパクトを評価する枠組。
・バリューチェーンのそれぞれの段階におけるインパクト、アウトカムを測定。
・特定の指標を設けていないが、主にバリューチーン、マクロ経済、制度・政策、環境、商品開発とマーケティングの分野で、貧困層の生活水準、健康、ジェンダー、エンパワメント等への貢献を分析し、包括的。
・評価を実施するためには、時間的及び人的コストがかかるため、開発されてからこれまでの約10年間でこの評価手法を実施している事例は4社のみ。

8. DFID Business Innovation Facility (BIF)

Baseline Form for new projects

・検討中のインクルーシブ・ビジネスが①貧困層を消費者として捉える場合、②貧困層を生産者・流通業者として捉える場合に分けて、インパクトを考える枠組みを示す。
・財務、開発、環境の観点からの評価。
・参考指標が示されているが、企業は自由に記載できる。

9. Roberts Enterprise Development Foundation (REDF), New Economic Foundation (nef):

Social Return on Investment (SROI)

・事業によってもたらされた社会的価値をステークホルダーごとに明確にし、貨幣価値に換算することで事業がもたらす価値を定量的に表現。
・事業評価のための手法ではなく、分析のプロセス自体や結果を事業改善や検討に活用し、更なるイノベーションを実現
・6つの段階を踏んで実施される:(1)当該事業の受益者の特定、(2)インパクトマップの作成、(3)アウトカムの定量化、貨幣価値化、(4)インパクト(価値)の特定、(5)SRIOの算出、(6)SROIの活用

10. Grameen Foundation:

Progress out of Poverty Index (PPI)

・グラミン銀行のファイナンスモデルを展開していくために設立されたグラミン財団が、ファイナンス事業を実施する前に貧困層の実態を把握することを目的に開発。
・マイクロファイナンス事業実施前後で貧困層の状況を比較するために活用され、国別に対応した10項目の指標(非財務項目)で構成されている。
・マイクロファイナンス機関が組織としての戦略的意思決定のために、貧困層に関するデータの分析(主に貧困層人口算出に必要なデータ)を行うために使用されている。

出典:独立行政法人国際協力機構(JICA)、あらた監査法人、ARUN合同会社 (2013)
「BOPビジネスの開発効果向上のための評価
及びファイナンス手法に係る基礎調査 ファイナルレポート」
p6-16、6-17を加筆修正。

※上表、社会性(開発効果)評価の枠組みや指標例の詳細ついては、下記リンク先レポートをご参照ください。http://libopac.jica.go.jp/images/report/P1000012974.html

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ARUNにおいても、上記の既存の社会性評価手法や指標について調査し、ARUNのミッションや投資方針と照らし合わせながら、2012年に独自の社会性評価枠組みを開発、現行ファンドの投資案件についてレビューとレポ―ティングを実施中である。2014年は、世界的に国際的な共通基準を設けようとの試みを行っているImpact Reporting and Investment Standards (IRIS)との連携等を含め、より実践的且つ先駆的な取り組みを行って行きたいと考えている。

 


[1] この連載では、社会性に配慮したお金の流れとその流れをつくる投融資行動のことを「社会的投資」として紹介しています。なお、同類語として、社会的責任投資(SRI = socially responsible investment, sustainable & responsible investment)、社会貢献型投資、sustainable investment, impact investment, investment with blended value等があり、定義は若干異なりますが、いずれも社会性・環境・コーポレートガバナンスに配慮した投融資活動を含みます。

 

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