ARUNパートナー 小山達郎
今回のスタディーツアーは4月7日(月)に東京を出発し、4月12日(日)に帰国するスケジュールでした。移動などを考慮すると、現地に滞在したのは4月8日(火)から4月11日(土)まで。4月8日から4月10日までの3日間(実際には8日はプレイベントなので2日間+α)はデリーでのSankalp(http://www.sankalpforum.com/summit/global-summit-2015/)という国際会議への出席、11日にはコルカタでの投資先であるiKureの見学を行いました。
Sankalpの振り返り
Sankalpの振返りをするにあたって、まずSankalpとは何か?を考える必要があります。私の理解では「Intellecapが様々な団体と共同で開催する社会的投資と社会的企業家に関する国際会議」という位置づけです。
ではIntellecapとは何でしょうか。個人的な所感は
① インドの社会的投資のパイオニアであるVineet Raiにより共同創設された
② (既にインド人以外の欧米人も採用されているが)インド人の知識層出身プロフェッショナルを中心とする
③ エンジェル投資家のネットワークであるI3N等の関連団体を幾つも保持し、自身もコンサルティングや投資銀行業務といった多様なサービスを提供する
④ インドを中心としつつ東アフリカも対象地域とする
⑤ 低所得層が直面する問題に取り組む専門家組織である。
後段でも触れますが、Sankalpを訪れるとIntellecapのメンバーと出会う機会が多くあります。そして、その人数に驚きます。多くのメンバーがMicrofinance業務に関わっていて、彼らは1,000人近い陣容を誇っています。多くの中堅・若手クラスのメンバーが、欧米の大学出身又は欧米のコンサルティング企業又は投資銀行出身であり、相当程度Westernizedされていました。またその層の規模と厚みをもひしひしと感じました。恐らくIntellecapで働くことは欧米を経験した自国出身者にとって”Cool”なことであり、”Attractive”なのでしょう。SankalpとはそのIntellecapが威信を掛けて主催する、今回実に7回目の開催となる、社会的投資のGlobal Summitなのです。
今年2015年のSankalp Tourのポイントは以下に思われます。
A:12億人の人口を擁するインドの圧倒的な潜在力と社会的投資の可能性
B:Intellecapのインドにおける「巻き込み力」(政府セクター含む)と存在感
C:インドにおける社会的投資の「生態系」の形成
D:英語をテコにしたGlobal Connectivity
Aについて:インドの人口は数年内に中国を超え世界一になると共に、若年人口が全人口の約半数と成長性に関しても極めて高く、国際社会におけるその存在感は今後極めて大きいものになることが予想されます。Sankalpの参加者も多分にその自認が有るように思われました。このほぼ間違いなく達成される人口予想は企業家と投資家、そしてその繋ぎ役を果たすIntellecapにとっては、大きな後押しとなっています。また、Sankalpに参加する多くの社会企業家は自身の社会性のみならず、経済的成長性に関しても深い自信を有しているように見えました。その自信が企業家の層の厚さにも繋がっているのだと思います。社会的投資と言うからには、単なる途上国でのベンチャー投資とは違う、との側面もあります。しかし、圧倒的な潜在的経済成長性は、企業家の層の厚みを通じて、我々社会的投資家に大きなチャンスを産むように個人的には思います。考えようによっては、マクロ経済の成長余力は、社会的リターンと経済的リターンの両立をサポートするとも言えないか。少なくとも市場の大きさは間違いなく、それゆえリーチ出来る人口規模、そして課題解決のインパクトも大きいと感じました。
Bについて:2015年のSankalpの大きなテーマの一つは「政府」の関与であったことはそのサブタイトルに明確に謳われています(Fueling the Innovation Economy : Role of Government, Private Sector and Capital)。また、それは、開催場所が前年のムンバイからデリーに移ったことにも明確に表れています。また、登壇者に数人の大臣級のインド政府関係者と在インド米国大使がおり、日本での実情に照らし合わせて考えてみると、Intellecapの巻き込み力の高さには驚嘆すべきものがありました。公共セクターと対抗軸を作るのではなく、「共生」していくとの姿勢は現実的であり、よりインパクトを高める上で自然だとIntellecapは判断していることが伺えます。また、プログラムの「量」と「質」、そして参加者数、に関して前年を上回っているようで、Intellecap自体のリソースの増強・存在感の高まりが感じられました。Vineetのリーダーシップが、Intellecap自体の経営を拡大させている、そんな印象がありました。
Cについて:インドにおいては、Intellecap「以前」(というか当然重なっているだろうが)から活動するようなパイオニアから、Intellecapのような欧米帰りを中心とする高知識層やエンジェル等の富裕層、そして若い社会起業家、といった勢力を中心に社会的投資の「生態系」が生まれつつあると感じました。好むと好まざると、このスペースで活動していくためには、生態系を十分に理解し、その上で行動することが必要になるでしょう。投資案件はその生態系の「上位」に存在する投資家のスクリーニングを経ている、と想定した方が良いでしょう。通常のベンチャー投資と同様に、今後ARUNも単独で企業に投資するケースはさほど多くなく、既存か新規かにかかわらず、共同投資の形態を採用することが多いとした場合に他の投資家との関係構築は極めて重要になります。
Dについて:全てのプログラムが英語で実施されました。それは必然であり、何の違和感もなく実施されています。今後一層、英語を通じて、他の英語圏とのConnectivityは急速に高まっていくでしょう。日本人、日本の投資家、そして日本企業にとっては、この点は一定のボトルネックとなってしまう可能性はあります。ただ、残念ながら日本語人口は現在の1億2千万人から急激に増えることは考えづらい一方、増加し続ける12億人の人口を誇るインドには圧倒的な成長性が内在することは間違いありません。今後とも残りの全世界が「市場」または「投資対象」としてインドに熱い視線を送り、英語をテコに結びつきを深めようとする、と考えて良いと思います。
<続く>