【書評企画】社会的投資を知るための1冊【第8回】

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 ARUNパートナー 大久保晋吾
(弁護士,ヤンゴン大学教員)

今回はこれまでと少し趣向を変えて,社会的「投資」そのものではなく,主な投資対象としている「アジアの社会」について考える本を取り上げました。投資先の国・社会を知ることも,(アジアにおける)社会的投資を知ることに役立つものと考えています。

ワシントンの中のアジア(原題:Asia in Washington)」ケント・E・カルダー著(中央公論新社)

本書は,米国における日本,アジア研究の第一人者であるケント・カルダー教授が,ワシントンを舞台としたアジア諸国の外交活動を事例に,アジア諸国の経済,安全保障問題が,米国をはじめとした他国から受けている影響を詳細に考察しています。

カルダー教授の指摘を引くまでもなく,世界は相互に緊密な結びつきを持っており,アジアにおいても決して例外ではありません。2015年末にASEAN共同体設立を目指すAEC(ASEAN経済共同体)の試みも,この方向性を強めるものです。

そして,本書の中では,経済規模の大きい日中両国が,必ずしも,他のアジア諸国と比べて圧倒的な影響力を行使出来ているわけではない事が指摘されています。実際,各国の政策決定者,ビジネス,大学関係者の間では,相互に多面的な交流が始まっており,カルダー教授自身も,ミャンマーで昨年25年振りに再開したヤンゴン大学において政治経済の講義を長期担当していました。アジアの中の最後進国という意味も込めて,「ラスト・フロンティア」と呼ばれているミャンマーを含め,アジアの国々に生きる人々は,世界と同じ目線で物事を考え始めています。

単なる投資ではなく,社会的投資を通じて,アジアの人々と共に歩むことを目指すためには,時には大きな地図を眺めてみる必要もあると思います。アジアが大きな転換点を迎え,アジアを巡って多くの議論がされる中で,同じアジアに位置する国として問題を一緒に考えていかなければなりません。

今後,日本を含めたアジアがどこへ向かおうとしているのか,世界との繋がりの中で,そのあり方を捉えなおす必要がある,とカルダー教授が40℃をこえるヤンゴンの教室で熱く(文字通り!)語っていたように,私も,本棚の奥で埃をかぶった地球儀を回しながら,夏の休みに改めて,本書をたよりに自分の考えを深めたいと思っています。

ワシントンから大きな世界の動きを眺めた後には,あわせてミャンマーにおける最新の問題意識を共有することも,アジアの社会を理解する役に立つかもしれません。

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ビルマ・ハイウェイ‐中国とインドをつなぐ十字路‐(原題:Where China Meets India)」)
タンミンウー著(白水社)

もう一冊は,ビルマ人の歴史家が,歴史を紐解きながら,豊富な知識を携えて,インド北東部から,ビルマ,中国雲南地方に至る道(その大部分は紛争の絶えない危険地帯)を,数年がかりで歩いて回った紀行小説です。中国とインドを繋ぐ十字路は,21世紀のシルクロードになるかもしれないと,ミャンマーの将来への希望を語りつつ,国家安全保障の観点から,その背後で繰り広げられる裏事情まで丹念に観察がされています。

気楽に読めるのに,単なる旅のエッセイではなく,良質な歴史書と,かつてバックパッカーのバイブルだった『深夜特急』(沢木耕太郎著)を併せ読んだような読後感。著者タンミンウー氏も,カルダー教授が教鞭を執るジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)の修了生であり,あわせて二つのケンブリッジで歴史学を修めています(ハーバード大学=米国マサチューセッツ州ケンブリッジと,英国のケンブリッジ大学博士課程)。元国連事務総長ウ・タントを祖父に持ち,自身も元国連職員として旧ユーゴスラビア,カンボジアで勤務,そんな人並み外れた経験と知識が可能にするのでしょう。書店に数多く並ぶミャンマー関係の書物の中でも出色の出来だと思います。

先に紹介した一冊は,ミャンマーの大学で行われた講義の一端を垣間見るものとして,そして後に挙げた一冊は,ミャンマーの知識層の持つ問題意識の一部を共有するものとして,同じ目線で,アジア社会の問題を一緒に考える,そんなきっかけになればと思い紹介させて頂きました。

ARUNが社会的投資の対象としているアジアは,近い将来,中国とインド,米国と日本が出逢う十字路となるかもしれません。

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